アンリ・ヴェルヌイユ監督「地下室のメロディー」

年明けなので男前を拝んで格好の良いフレンチサスペンスを..ということで、本年最初の映画として元町映画館で開催されていたアラン・ドロン祭の中の一つ『地下室のメロディー』を鑑賞してまいりました。まだまだお正月気分が残っているせいか、劇場は比較的多くの人で賑わっておりなんだか嬉しくなってしまいました!写真:『アラン・ドロン生誕75周年記念映画祭』チラシ。同映画祭上映作品:『若者のすべて』(ルキーノ・ヴィスコンティ)、『地下室のメロディー』(アンリ・ヴェルヌイユ)、『黒いチューリップ』(クリスチャン・ジャック)、『世にも怪奇な物語』(ルイ・マル他)、『あの胸にもういちど』(ジャック・カーディフ)


個人的にはミステリーやサスペンス、アクションといった類の映画や小説はそんなに好きではないのです。何か大きな目標を達成するためのプロセスとゴール、或いは謎解きの過程と答えなどというものにはどうも子供の頃からそれほど魅力を感じることはなく、むしろ肉眼で見たり論理的に説明したりすることができないような力(多くの場合、人はそれを愛とも呼ぶのですが)を”きちんと”描いているようなものがずっと好きでした。なので一般的にはすごく人気のあるようなクライム・サスペンスを観に劇場に足を運ぶということまではほとんどしないんです。しかしですね、この『地下室のメロディー』は別格!傑作エンタテイメントです!
よく言われることですが、ハリウッド映画では火薬の数と映画のヒット具合は比例するとか。また軽いセックスシーンも必須だとか。でもですね、延々と続く撃ち合いや車がぎゅんぎゅん走るシーンというのは私は退屈なんです。一方、本作品はというと、銃は一発も撃たれません。爆発もありません。誰もおっかけっこをして走りません。そしてセックスもございません。でもサスペンス感は後半に向かうほど上昇するのです。高所恐怖症の私はエレベーターのシーンなど顔をのけぞらせて見ていたのですが気絶しそうになりました。画面は白黒、派手な動きもそうありません。ハリウッド映画の数百倍地味です。怒鳴りあいもありません。でも退屈はまったくしません。何故なんでしょうか?
それは一つには、古典的とも言える編集技法によってできる”すきま”或いは”余白”のようなものなのではないでしょうか。ハリウッド・アクションでは余りに多くの爆発やチェイス、目の回るようなカット数、がなりたてるヒーロー、そして果ては3Dと、過剰なまでの情報を見せられることがほとんど。こちらの想像力を働かせる余地を与えてはくれません。確かにそれが面白いと思うこともあるでしょうが、『地下室のメロディー』を観れば実は「だまされていた!」と気づくでしょう。あんなにたくさんの情報は必要ないのです。むしろ、自分の想像力をちょっと使うほうが、よほどぞくぞくして面白いのです。有名な話ですが、アメリカでヒッチコックの『サイコ』で最も印象に残っているシーンを問うたところ、一番多かったのがシャワー室の「真っ赤な血」という答えだったとか。あの映画はもちろん白黒。でも人々の頭の中では「真っ赤」だったのです。

本作品が最も寡黙になり、最も緊迫していくのが、あのとんでもないラストへとつながるプールサイドのシーン。主役の二人、ジャン・ギャバン扮するシャルルとアラン・ドロン扮するフランシスは車中での会話を最後に映画が終わるまで一言も言葉を発しません。プールサイドのこちらとあちらで無言の会話をする二人。特に椅子に腰をおろしたまま全く動きもせず無言でフランシス(アラン・ドロン)の姿を見つめるジャン・ギャバンの演技は絶品。観ているこちらも「どうするのだ?どうするのだ?!!」とスクリーンに釘付け(もちろん、アラン・ドロンがあれだけの男前であることも見つめてしまう要因の一つであることは否定できませんが…)。そしてこちらの想像を超えるエンディング!このラストが本作品を単なる「娯楽映画」から「傑作」にしたと言っても言いすぎではないでしょう。いわゆるハッピーエンドでは全然ないのだけれど、観終わった後なぜかとても爽快で、思わず故水野晴郎さんのあの決め台詞が頭の中をよぎりました!

「地下室のメロディー」(原題:Melodie en sous-sol)
制作:1963年 フランス 121分 モノクロ
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
音楽:ミシェル・マーニュ
出演:アラン・ドロン、ジャン・ギャバン

『アラン・ドロン生誕75周年記念映画祭』は1/6終了。
元町映画館公式サイト

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