超主観的 好きなシーン その2 音楽シーン

『超主観的 好きなシーン』シリーズ(?)その2です。今回からは、前回ずらっと列挙させていただきました私が個人的に大好きな映画のシーンTOP10をテーマ別に分けてご紹介させていただきます。ということで、今日のテーマは”音楽”。これはいわゆる『映画音楽』やBGMのことではありません。”歌”や”演奏”そのものが”シーン”であるシーン、つまりパフォーマンスシーンですね。尚、これらは「好きな音楽シーンはどれか」というテーマで選んだものではなく、好きなシーンを選んでみたら、その中に音楽シーンが幾つかあったのでまとめてみた、というものです。

Wild at Heart – ワイルド・アット・ハート

この映画は私的好きな映画の第三位にランクインされる作品。よくリンチ作品の中では比較的わかりやすいほうだという言われ方をしますが、この点については個人的に感じるところが色々とあるのですが、それはまた別の機会に。もしこの作品をまだ見ていない、かつ、最近のニコラス・ケイジしか見ていない方がいらっしゃったら、是非是非見て欲しい作品です。彼が最も素敵にキレている作品ですので。

私の愛してやまないシーンはエンディング。刑務所から出所したニコラス・ケイジ扮するセーラが恋人ルーラ (ローラ・ダーン) に、渋滞の車の上でプレスリーの『ラブ・ミー・テンダー』を熱く(暑苦しく?)歌い上げるエンディングロールシーンです。ここまで色々あったけど、奇妙な人々や暴力・流血もいっぱいあったけど、これでメデタシメデタシと、リンチ作品にしては珍しく清清しくさえ感じます。最初公開時に劇場で見たときは胸がジーンとなったものの、少し後から「ん?良いのかな?リンチさんのことだから何かあるのでは?こんなに素直に感動していいのかしら」とちょっと考え込んでしまいました。で、作品全体に潜む意味について長年に渡って考えた結論は….それでいいんです!ということでした。

Annie Hall – アニー・ホール

次はアカデミー賞受賞作品の中でもとりわけ異彩を放つウディ・アレンによる『アニー・ホール』からのシーン。十代の頃の恋愛のバイブル (実はこういう表現は気持ち悪くて好きではないのだが。わかりやすいかと思って使ってみました…) はこの『アニー・ホール』と『気狂いピエロ』でした。私がニューヨークに行くことになった原因の一つでもある映画です。

映画は一部始終ウディ・アレン扮するアルビーの愚痴やしょうもないジョークに彩られている(?) のですが、このシーンではクラブでダイアン・キートン扮するアニーが『Seems Like Old Times』をしっとりと歌い上げています。その段階ではなんてことのないシーンなのですが、その歌声がラストのアルビーの愚痴愚痴に重なってリプレイされると、がぜん際立ってくるのです。せつないなあ…と。これを観た当時はこのシーンが大好きで、カセットにこの部分だけ入れて”ウォークマン”もどきで何度も聞いていました。思えば同監督の作品はどれも愚痴と笑いとせつなさだらけ。自虐ネタが大好きな日本人には (誤解しないでください!批判ではありませんよ) 、他のあまりに堂々と自信に満ち溢れたアメリカ的ストーリーよりもしっくりくるのではないでしょうか?

このシーンは有名ですので、映画を通して見る暇のない人はYouTubeなどでも簡単にここだけ見ることができます。が、しかし、作品全体があっての一シーン。是非とも通して見てみてください、まだアカデミー賞がまともな作品に贈られていた頃の作品を。

Mulholland Dr. – マルホランド・ドライブ

最後は私的好きな映画ランキング堂々二位、これまたデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』からのシーン。同作品は米誌ニューヨーク・タイムアウトでも2000~2009年の十年間で最も”重要な”映画の一位にランクされています。

私をひどく動揺させたシーンはおなじみ、Club Silencioで “泣き女” が『Llorando』を歌うシーン。全映画の全シーンの中でも一番好きかもしれません。このシーンはちょうど映画半ば、二つの”世界”が転換する境目を示す非常に重要なシーンであります。主人公であるダイアン (ナオミ・ワッツ) とリタ (ローラ・ハリング) は”同じ髪型”をして劇場タイプのクラブClub Silencioに出かけ、そこで”泣き女”と呼ばれる女性の歌を聴きます。この歌が進むにつれ、映画を見ている人にも、主人公の二人 (一人は記憶喪失) にも、”真実”が明らかになります。実はここで”真実”だと思ったことは映画の後半の驚くべき展開により覆されることになります。が、本当に覆されたのでしょうか?個人的見解なのですが、世の中には複数の”事実”が存在するが、そこにある”真実”は一つであると長い間思っていました。しかしながら、この映画を見るにつけ、そして短い人生ながら様々な経験を積むにつれ、それは間違いなのかもしれないと考えるようになりました。それぞれが抱える複数の”事実”に対し、”真実”もまた一つではないのではないかと… 一部では難解と言われてもいる本作品ですが、私の考えではリンチ作品の中ではかなりわかりやすい方だと思いますので、まだご覧になっていない方は出来るだけ粗筋や詳細な解説を読まずに頭をからっぽにして素直な気持ちで見ていただきたいなと思います。その方がきっと理解しやすい (感覚で捉えることができる) かと思いますし、このシーンで「ハッ」とすると思いますので。

「ワイルド・アット・ハート」(原題 “Wild at Heart”)
製作:1990年 アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ニコラス・ケイジ ローラ・ダーン ダイアン・ラッド
ウィレム・デフォー ハリー・ディーン・スタントン イザベラ・ロッセリーニ
私的評価:★★★★★ 98点


ワイルド・アット・ハート [DVD]

「アニー・ホール」(原題 “Annie Hall”)
製作:1977年 アメリカ
監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン ダイアン・キートン
私的評価:★★★★★ 90点


アニー・ホール [DVD]

「マルホランド・ドライブ」(原題 “Mulholland Dr.”)
製作:2001年 アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ナオミ・ワッツ ローラ・ハリング
私的評価:★★★★★ 100点


マルホランド・ドライブ [DVD]

*ブログ『Days in the Bottom of My Kitchen』2010.11.17掲載

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

コメントフィード

トラックバックURL: http://www.capedaisee.com/2010/11/favscene2/trackback/


Twitterボタン
Twitterブログパーツ
その他の最近の記事