超主観的 好きなシーン その5 Mother – 母

『超主観的 好きな映画のシーン』シリーズ最終回です。今回の共通テーマは誰にとっても軽くは扱えないもの、『母親』です。偶然でしょうか、3作品のうち2つがスウェーデンのラッセ・ハルストレム監督のものとなってしまいました。たぶん理由はあるのでしょう。

What’s Eating Gilbert Grape – ギルバート・グレイプ

原題『What’s Eating Gilbert Grape』は日本語にすると、”ギルバートを困らせるもの”、”ギルバートのお荷物”、”ギルバートを蝕むもの”といったところでしょうか。アイオワの片田舎から一歩も出たことがないギルバート (ジョニー・デップ)。結構男前だし、都会の生活に憧れないわけではない。彼をこの地に”縛りつける”荷物とは?夫の自殺以降、家にとじこもり超肥満体となった母、重度の知的障害を持つ弟… ギルバートをこの地に留まらせている理由は本当に彼らなのだろうか?この作品については個人的に色々と考えるところがありますので、また別の機会に書かせていただくとして、今回は好きなシーンについて簡単に記します。

この作品の中で私が一番好きなシーンは、急死した母親の遺体を家ごと”埋葬”するシーンです。肥満体の母を近所の好奇の目に晒したくないから家ごと燃やしてしまおう、というのが一応その理由。家から離れられなくなった『母』と長年住んだ皆の『家』、これらがギルバートをこの地に縛り付ける大きな物理的要因です (ギルバートがその気になれば知的障害を持つ弟を連れて出る、或いは妹達に任せることも、簡単ではないものの、不可能ではないでしょうから)。家と母の埋葬、これはこれまでの生活とこの土地に対するギルバートの決別の象徴でもあるかのようです。何かを決めるために彼はこれらを燃やさなければいけなかったのでしょう。そしてラストで見せた彼の最終決断とは… (私にとってこのラストは爽快かつ大変共感できるものでした)。本作品を”自己犠牲”や”家族愛”について描いたものであるというレビューをよく見かけますが、それは少し違うのでは…と個人的には思います (続きはまた別の機会に!)。

My Life as a Dog – マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ

またしてもラッセ・ハルストレム監督の作品です。スプートニクで宇宙に飛ばされたライカ犬についての冒頭のエピソードで私がいきなり心をわしづかみにされた作品です。正直に言いますと、子供を使った映画はあまり好きではないのです、なんか手法がせこくて… この作品にはそのようなあざとさはありません。死にゆく母親、自分の置かれたつらい立場をライカ犬と比較して「まだ僕なんてましだ」と自分を納得させようとする少年の姿は大人でも共感できる感情 (或いは体験) かもしれません。

私のお気に入りのシーンは、そんな健気なイングマル少年の心がついに折れてしまったのか、庭の東屋に篭城し犬の真似をして大人を困らせるシーンです。”心が折れた”と言っても、この時の彼は怒ったり泣いたりしていません。むしろその表情は笑っています。「かわいそうなライカ犬よりは僕はずっとましだ」と思っていた自分も、結局は犬みたいなもんだ、哀れな犬だ、いやそれ以下だ、とでも言っているかのようにも思えます。結局ラストが示すように、彼は壊れませんでした。そんな風にして、それでも生きていくのです。しかしながら、前述ギルバート・グレイプにも共通していることですが、決してそこに絶望はありません (過大な夢もないかわりに)。結局多くの人にとって、生きていくとはそういうことなのではないでしょうか。

Les Uns et Les Autres – 愛と哀しみのボレロ

最後はクロード・ルルーシュ監督作品「愛と哀しみのボレロ」からのシーンです。これは以前に書かせていただいた『私が泣けるシーン』のものと重複しますので、ここでは簡単に。

私が好きなシーンは、赤ん坊のときに生き別れになった母親を精神病院にようやく捜し当て再会するシーンです。この”感動”の再会には二人の会話や熱い抱擁シーンや大仰な音楽はありません。ボレロの前奏がただ静かにリズムを刻むだけです。病院の中庭のベンチに一人座る老女の後ろ姿。そこに近づく息子。最初は手持ち無沙汰に老女の周りをうろついていますが、そのうち遠慮気味に隣に座ります。そして、ただ隣に座り続けます。もしかしたら母親のほうはこれが”誰”なのか、気付いてすらいないかもしれません。特筆すべきは、この一連の再会シーンがひたすら長回し・ひきのワンカット、終始二人の後ろ姿のみというところです。尚、非常に個人的な意見ですが、この作品をまだ見ていない方は完全版ではなくオリジナルを見ることをお勧めします。完全版はどうも余分なシーンが多いように感じてしまいます。(写真は、まだ若い頃の母と夫(つまり父、一人二役))

「ギルバート・グレイプ」(原題 “What’s Eating Gilbert Grape”)
製作:1993年 アメリカ
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ジョニーデップ ジュリエット・ルイス
レオナルド・ディカプリオ ダーレーン・ケイツ
私的評価:★★★★★ 90点


なんでこんなに良い作品がこんなに安いの!とちょっと憤りも感じますが…:
ギルバート・グレイプ [DVD]

「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(原題 “Mitt liv som hund”)
製作:1985年 スウェーデン
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:アントン・グランセリウス アンキ・リデン
私的評価:★★★★★ 92点


劇場ではもう滅多にやらないのでしょうね。残念ですが。
マイライフ・アズ・ア・ドッグ 【HDマスター】 [DVD]

「愛と哀しみのボレロ」(原題 “Les Uns et Les Autres”)
製作:1981年 フランス
監督:クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ ミシェル・ルグラン
振付:モーリス・ベジャール
出演:ロベール・オッセン ニコール・ガルシア ジョルジュ・ドン 
ジェラルディン・チャップリン 他
私的評価:★★★★★ 90点


愛と哀しみのボレロ(完全版)

*ブログ『Days in the Bottom of My Kitchen』 2010.12.10掲載

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