R・アルドリッチ監督「カリフォルニア・ドールズ」


いわゆるサクセス・ストーリーというものにはあまり心を揺さぶられることはない。努力して何かを手にするということにどこか嘘くささを感じてしまうのだ。たぶん、努力できるということも才能の一つだろうし、それができたとしてもそれは決して自分の力ではなく、そういう才能を持ってたまたま生まれただけのことにすぎない。純粋に自分の力だけでできることなどこの世にほとんどないのではないだろうか。などとというう自論があるゆえか、サクセス・ストーリーは私の心には響かないのだ。しかし『カリフォルニア・ドールズ』は違った。響いたのだ。(写真:神戸市兵庫区新開地本通り)
カリフォルニア・ドールズとは女子プロレスのタッグチームの名前。美人のアリエスとモリー、そしてピーター・フォーク扮するマネージャーのハリー。どさまわりとも言える地方興行の果て、彼らはついに全米チャンピオンの座を手にする。あらすじだけ聞くとちょっと遠慮したい内容。しかしこれがその他多くのアメリカン・ドリームを手にするお話とはかなり違うのだ。
三人の旅がまず素敵だ。太陽がさんさんと輝くカリフォルニアを本拠地とするカリフォルニア・ドールズのはずなのに、彼らの旅路はいつもどんよりと曇った空の下。それもすっかり寂れてしまった中西部の工場地帯。車中ではハリーが父親の思い出話を話す。流れる旅のBGMはいつもオペラ。どこまで走ってもどこまで走っても光輝くカリフォルニアへなんてたどりつけそうにない旅。
そう、結局、彼らはどこまで走っても世の『勝ち組』などにはなれないのだ。しょせん女子プロなのである。全米チャンピオンになり、果ては世界チャンピオンになったとしても、他のスポーツで男どもが世界チャンピオンになり手にする名声とは根本的に違うのだ。女子プロなのである。色物なのである。見世物なのである。そしてその事実に気付いている彼らが目指すものとは … All the Marblesなのである。本当の意味でのセレブや勝ち組になれないなら、自分達のやり方でAll the Marblesを手にするまでなのだ。そんな切ない現実を心のどこかで知っている輩にとっては、ドールズのケツぷりぷりのすさまじい肉弾戦は、戦えない自分の代わりに戦ってくれているまさに代理戦でもあるのだ。だから我々は彼女らの戦いに涙する。なんだかよくわからないけれど涙がこぼれる、とっても爽快な気分で。
『カリフォルニア・ドールズ』は音楽著作権上の問題からDVD化が難しいそうです。私は神戸・新開地のKAVCで幸福なことに爆音上映にて鑑賞しました。今月19日から大阪・第七藝術劇場でも上映しますので、まだ観たことのない方は是非観てみてください。2013年を1年生き抜く元気がもらえるはずです。そしてハリーの「優しさ」とドールズのラストのギラギラの衣装に涙してください!

「カリフォルニア・ドールズ」(原題 “…All the Marbles”)
公開:1981年 アメリカ
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:ピーター・フォーク、ヴィッキー・フレデリック、ローレン・ランドン

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