W・ヴェンダース監督「パレルモ・シューティング」


写真を撮るという行為はある意味非常に攻撃的で暴力的なものである。英語では写真を撮るの「撮る」はご存知のように「shoot」であり、ガンや矢を対象に向かって撃つ時に用いられる言葉と同じなのである。カメラを人に向けるということはある意味相手を襲うことでもあり失礼な行為かもしれないのだ。だから私は写真を撮るときは最低限、ファインダーから相手をまっすぐ見るようにしている。昨今のデジカメや携帯電話付属のカメラの液晶画面を見ながらの撮影においてはこちらの目線はまったく対象そのものを見ていないのであって、個人的には、撮るときも撮られるときも、かなり居心地が悪いのだ。だから私はいつもファインダーを覗く。ファインダーを覗けば見えていなかったものも見えたりしておもしろいということもあるというのも理由の一つではあるのだが。(写真:映画『パレルモ・シューティング』より)
その見えていないものとは何なのか。物事の本質などというようなものなのか?カメラは現実から真実を四角く切り取って人々の前に曝け出すという一種残酷な装置でもあるのかもしれない。映画『パレルモ・シューティング』は真実や本質を切り取ることを放棄した写真家が、自らの生み出した「死」に取り憑かれ、そしてやがては救われるという物語。
そもそも彼が何故“本質”に迫ることから逃げるようになったのか、どうして自分の生み出した“死神(或いは死そのもの)”に怯えるようになったのか、明白な理由はラストまで語られないものの、彼に重たくのしかかる影(或いは罪悪感とでも言おうか)は映画の中で度々示唆されている。経験のある方ならわかるだろうが、人は大切な人の死を止められなかった時、生前十分に尽くしてあげられなかった時、その思いは相手の死後、とてつもなく大きな罪悪感となって長く長く残り続ける。彼もまたそうなのであろう。
映画のほとんどが終わるまで実は私は「これは観終わったらとても重苦しい気持ちになってしまうのかも」と多少心配していた。しかしながら心配は無用であった。彼はラストで“死”と正面から対峙する。彼は自分が“死”に対して何がしてあげられるのか、何かしてほしいのか、と問う。“死”は「あなたは私のポートレイトを撮ってくれたことはなかった」と言い、そして「Honor me…..and..Take my portlait 私に敬意を払いなさい。そして、私のポートレイトを撮りなさい。そうすれば今回はあちらへ連れていかない」と続ける。そして彼に向かってポーズをとる“死”は彼がシャッターを切る瞬間に死んだ母となる。彼を縛り付け、彼にまとわりついていた死神とは、彼の母に対する罪悪感や後悔の念ということなのであろうか。おそらくたった一枚の写真すらプロとして正面から母を撮影したことはなかったのだろう。そしてたったこれだけの行為で男の魂は救われる
ヴェンダースの87年の作品『ベルリン天使の詩』では、不死身の体を捨てて人間として生きたいと切に願った天使があちらからこちらへやってきた。天使であることをやめて人間になるということは、それまで無関係であった“死”というものといつか確実に向き合わなければいけないということ。そして『パレルモ・シューティング』ではその“死”が人間をあちらに連れていこうとする。四半世紀を経てこの二つの作品がつながり何かが完結したようにも感じた。

「パレルモ・シューティング」(原題 “PALERMO SHOOTING”)
製作:2008年 ドイツ=フランス=イタリア
監督・脚本・製作:ヴィム・ヴェンダース
出演:カンピーノ、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、デニス・ホッパー
公式サイト:http://www.palermo-ww.com/

もしまだ『ベルリン天使の詩』を観ていらっしゃらない場合はこちらをまず観ることをおすすめします。
「ベルリン 天使の詩」(原題 “Der Himmel uber Berlin”)
製作:1987年 フランス 西ドイツ
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース ペーター・ハントケ
撮影:アンリ・アルカン
出演:ブルーノ・ガンツ ソルヴェーグ・ドマルタン

新開地の神戸アートビレッジセンターKAVCにて3/25に爆音上映があと1回のみ!是非是非大画面大音響で。素晴らしい作品です。(写真:KAVC)

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